第8章 大樹
そうして私は、かろうじて伸びている細い道を、馬で慎重に進みながら山を登って行った。山といってもそこまで高いところではなく、ただひたすら深い森の中を歩き続けていた。
その間におんりーから色々と話を聞いてみたところ、この世界に来てから自分だけでなく、他の勇者たち一行も歳を取っていない、とのことだった。それもそのはずだ。昔、私が産まれる前にエンダードラゴンの封印に行く旅に同行したのがおんりーならば、少々若過ぎる。私よりは少し歳上のように見えるが、それでも辻褄が合わないような気がして私はずっと不審感が拭えなかったのだ。
そして、これから行く、大巫女の杖を修復する場所……神聖な湖と呼ばれているところは、人々が立ち入らないのもあり、獰猛な生き物も多いのだそうだ。おんりーは戦いに慣れているようだが、私は全く戦ったことがないので、離れないようにと結構キツめに言われた。私は素直に頷いた。
森を歩き続けていると、ようやく目の前が開けてきた。そこには聞いていた通り湖が広がっていて、昼になったばかりの太陽が照らしていて眩しいくらいだった。
私はおんりーに支えられて馬を下りた。私はいつも二番手だったから、こうして丁寧に接してくれることがなく、少しドキリとした。きっと、私にも結婚の予定があれば、どこかの国の王子様とこうしてサポートしてもらったんだろうな、と思う。
私は湖の中心に向かって伸びている桟橋へ一人で歩き出した。ここから先は、王家と巫女の一握りしか通ることは許されないらしい。
私は不安になりながら、ギシギシと軋む桟橋を渡る。左右の湖は驚く程静かで妙に不気味だった。
湖の中心には太く逞しい大樹が佇んでいて、風が吹くとわずかに唸り声をあげた。長い年月を強かに生き抜いてきただろうその大樹は青々しい葉を身につけて足元を暗くしていたが、私は不思議と怖さがなくなっていた。私は息を吐いた。
「この樹……私知ってる」
自然と出てきた言葉。それから思考が追いついてきて、どこで見た大樹だったけと考えて気付いた。
あの水晶玉に映っていた大樹だ。