第55章 あの時の果実
すっかり忘れていた。大切なものだったのに、いつどこに仕舞って忘れていたのだろう。おんりーからもらったダイヤは今も自室に飾って大事にしているというのに、この果実のことを忘れていたなんて。
私は自分の記憶力のなさに困り果てつつも、食料庫に立ったまま青い果実の香りを嗅ぐ。
ふわりと果物らしい香りがして、私はついこんなところで果物を口にしたくなってしまった。これはいわゆる、つまみ食いというものでは。そんな庶民的な考えに私は少し嬉しくなりながら、ひとかじり、青い果実を頬張ってみた。
甘みと酸味の絶妙なバランスの果物に、頬っぺが落ちそうになるとはこういうことなのかと、私は気付けば夢中に食べてしまってぺろりと一つ、青い果実を平らげてしまった。
あのサークレットと同じように保管すればよかった、と思った時には既に遅く。少しの罪悪感は抱きながらも、これはこれで美味しかったし、と自分のしたことを都合よく納得しようとしたところで、アレ? と違和感に気付いた。
この食料庫、こんなに暗かったっけ。
私は引き返してどこかに明かりを探そうとしたが足がなぜか重くて動けず。まさか、食べてはいけない果物だったのではと私は焦り始めた。
ああ、なんてこと!
私はその場で座り込んで顔を覆った。魔法はいつ解けるのだろう。まさか一生掛かるなんて言わないでと思わず歴代大巫女様たちに祈っている内に、私の意識は、遠くへ飛んだ。