第54章 その後
「ユメ様、昼食のオニギリの準備を任せたいのですが……」
と出てきたのは城の料理長。ずっと城の厨房を任せてきた信頼あるシェフであり、今私がその人の元で働いているので上司でもあった。
「様呼びなんてしなくてもいいのですよ、料理長。私はただの、料理見習いですから」
あのあと家族に振舞った質素なオニギリという食事は、みんなに大好評だった。大巫女になるという目標も、城を出て一人暮らしをするということもなくなった私が、次に選んだ未来への選択は「城の料理長になる」ことである。
今はまだまだ下っ端だけれども、オニギリを作れるのは今の所私だけであり、昼食はずっと、私がオニギリ担当だったのだ。
さてと、と私が料理台へ向かった時、コロリと何かが転がり込んで来た。見ると青い果実。あの時アレイにもらった果物だと思い出す。
「ユメさん、それは……?」
料理長が私の手にある青い果実を見て訊ねた。あの日からだいぶ経っていたはずだが、まるで採れたてみたいにしっかりとした実を保っていて、私はこれに魔法が掛かっているのだと密かに気付いた。
「これは、大切なものなの。……オニギリの中身、探してきますわ」
私は食料庫へ向かった。