第1章 冗談なんかじゃない
それから。
ゾロゾロと他のみんなも帰って来て。
色付いた空気も全て消滅。
それでも。
三園とふたりいれば「結婚はいつですか?」なんて話題になるくらいには。
あたしと三園の関係はみんなにバレているようで。
冷やかされながらもさっきみたいな変な空気を感じさせないところ、やっぱり三園は経験値が違うとも、思った。
「玲」
ドキン。
声だけで。
心臓が跳ねた。
やばい。
今。
振り向けない。
「…………何」
横で。
三園が立ち上がる音がする。
縁側の方で加賀谷とふたり内緒話、をしてから。
ふたり肩並べて出て行った。
『玲』
名前で呼ばれる三園に嫉妬するとか。
いやいや拗らせすぎだっての。
前からずっと仲良かったじゃんあのふたり。
「あれ、お嬢もういらないんで?」
「うん。ご馳走様。今日もおいしかったよ、ありがとう優吾」
「はいっ」
ここの人たちは。
嫌いじゃない。
父が組長に就任してからひとりになることが多かったあたしのまわりには、加賀谷をはじめみんながそばにいてくれた。
みんながあたしを大事にしてくれた。
『普通の家に生まれたかった』
そう思ったことなんてない、って、言ったら嘘になるけど。
普通の家がどんなものかなんて知りもしないくせに。
まぁ、あれだ。
結局ないものねだり的なやつだったのかもしれない。