第1章 冗談なんかじゃない
ブチ切れた当時の彼氏が刃物を向けたのは加賀谷じゃなくてあたしで。
油断してたところに意味わかんなくてパニック起こして身動き取れないあたしを当然のように庇ったのも、加賀谷で。
流血事件を起こした加賀谷はお父さんにこっ酷く叱られた。
小学生の時に不登校になって、怒られたのも加賀谷。
あたしが何気なく言った一言。
『加賀谷が学校行かなくていいって言った』。
そのたった一言で加賀谷は。
加賀谷だけがいつもいつも。
悪者になる。
原因を作ったあたしはいつもぬくぬくと温室にいるだけ。
そりゃそうか。
今思い返せるだけでもいっぱい加賀谷に迷惑かけておいて。
好きどころか好意なんて持てるわけない。
あー。
全部なんか、納得だ。
「お嬢?」
「…………三園」
「珍しいですね、最近はご自分の部屋に籠り切ってたから。今日はこっちで食事です?」
…………良く見ると。
この人もヤクザっぽくないなぁ。
無駄にキラキラしてるってゆーか。
なんでここにいるんだろう。
「三園ってさ、なんでウチ来たんだっけ?」
「…………それは、俺個人に対する興味って受け取っていいですか?」
「え…………」
やば。
返しが、妙に色付いてて。
三園が次期若頭に上がってることやっと思い出した。
「あ、いや…………、世間話、的な?」
「そうですか」
色付いた空気が一変。
三園のいつもの笑顔で、空気が軽くなる。
んー。
あやかりたいテクニックだわ。