第1章 冗談なんかじゃない
「…………良かった。覚えてた」
「っ」
ひとり百面相を隣で見てた加賀谷の肩が、小刻みに揺れてる。
それすらも恥ずかしめる材料に加算されて。
さらに頭へと血が登った。
「…………手加減、てものをいい加減覚えなさいよ」
「しただろ?」
「…………はい?」
「そりゃするだろ、はじめての女相手に全力出すほど鬼畜じゃねぇって」
タバコへと火を付けて。
深く吸い込んだ息を、吐き出して。
加賀谷が小さなテーブルへ、タバコの箱とライターを置いた。
「…………気絶するまで抱き潰しといて誰が鬼畜じゃないんでしょうね、ほんと」
「…………悪かったよ」
「…………加賀谷?」
なんか。
雰囲気、が。
「…………こう、なったこと、後悔してる?」
やばい。
自分で言っといて声震える。
『ああ』。
なんて言われたら。
ふーっ、て。
煙なのかため息なのかわかんないものを吐き出したあと、タバコの火を消すと。
ぎしって。
すぐ近くに加賀谷の気配。
感じるのに今更怖くて顔あげらんない。
「!?」
急に加賀谷の手が顔へとまわされて。
限界まで向かされた顔へと重なった唇からはタバコの苦い味。
「してねぇ」
「…………ごめん」
「なんで」
「三園と、気まずい、よね」
ふたり仲、いいし。
『俺じゃ駄目ですか』
あれは。
冗談なんかじゃないのに。
スルーされる辛さは痛いほどわかるはずなのに。
あたし酷いことしてる。
三園にも。
加賀谷にも。
「…………玲から、なんか言われた?」
俯いたままに小さく頷けば。
頭を撫でてくれる、おっきな掌。