第1章 冗談なんかじゃない
「…………なんです?」
「…………っも、ない…………」
「なんか、何?」
「知らない、って、ば。も手、はなし、て………っ」
振り解こうと精一杯抵抗したところで全然解放される気配なんてなくて。
むしろ絶対楽しんでる。
余裕そうに笑っちゃって。
腹立つ。
「っ」
わざと見せつけるみたいに顔、近付けて。
聞いたことないような声色が、耳から脳まで響いた。
「言って、お嬢」
み、み、耳っ!!
噛んだ!?
舐めなくていいってば。
なんなのこれぇ。
いつのまにか両手は恋人繋ぎよろしく、ベットに縫い止められて。
ふたつの足の間には。
加賀谷の膝が我が物顔で陣取ってる。
「かが、やぁ」
耳元で加賀谷の息遣い。
熱くて。
頭、沸騰する。
「『杏果』」
な…………っ、に。
——————ドクン!!
て。
飛び出すんじゃないかってくらい心臓がおっきく跳ねた。
ゾクゾクゾクって。
背中から熱が湧き上がって来て。
パチパチパチ、って。
目の前で熱が弾けたみたいに。
一瞬何か、スパークした。
何。
これ。
知らない。
こんな感覚知らない。
「…………ふ」
驚いたように一瞬視野を広げて。
加賀谷の瞳が、細くなる。
「どこにこんなかわいい顔、隠してた?」
あ。
加賀谷の手。
冷たくて気持ちいい。
熱くなった頬に加賀谷が手の甲を擦り付ける、から。
冷たくてすごく気持ちいい。
思わず自分の手で、加賀谷の手を掴んだ。