第1章 冗談なんかじゃない
のに。
「…………嘘でもそんなこと言えねぇよ」
後ろから。
加賀谷の体温とともに伸びて来た指先が涙を拭う。
「言えねぇから、逃げてんだろーが」
そのまま後ろから。
加賀谷の腕に力が入って。
抱きしめられてるのかと、錯覚しそうになる。
「————完敗」
「え」
「お嬢には負けました」
「何…………」
「好きです」
—————ドクン。
「好きです、お嬢」
「嘘っ」
思わず咄嗟に振り向けば、加賀谷の驚いたような表情がすぐ近くにあって。
すぐにふ、て。
目が細くなった。
「人の一世一代の告白嘘って。そっちこそなかったことにすんのかよ今更?」
「ち、ちが…………っ、だって絶対迷惑してると思ってたし」
「あー、迷惑でしたよそりゃもう、こんなヘマしちまうくらいには」
「…………ごめんなさい」
「お嬢のこと考えすぎて、何が1番最善なのか自分なりに考えて考えて、こっちはいろいろ我慢してたっつーのにほんとこの、お嬢さんはよーぉ?」
「え。…………え!?」
「…………ったく」
肩を抱いて。
あたしを立たせると。
そのまま加賀谷はあたしをお姫さまだっこ、した。
「え、ちょっと待って加賀谷、重い…………っ、からおろしてほんと」
「も一回重力について調べ直したらどうですか。何食べてんだってくらいに軽いですよ」
「っ」
足で乱暴に開けられた寝室のドア。
に。
状況理解して一瞬にして石化する。
「お嬢が言いませんでした?『欲しい』んでしょ?」
「ち、が…………。そうゆう意味じゃなくて」
「違いました?『俺』はずっと思ってましたよ。あんたが欲しいって。」
下ろされたベッドの上。
忙しなく外されたネクタイと、肌けた加賀谷の胸板が視界にうつる。