第1章 溢れたイチゴみるく
お父さんは何も言わなかった。お父さんが無視することは『肯定』してるって証拠だ。
「……お父さん、睦実ちゃんって知ってる……?長い亜麻色の髪の女の子なんだけど……」
「な、なんでその子の名前を……!」
お父さんは急に車を止めると慌てて私の方を振り向いた。
その顔は幽霊でも見たかのように真っ青な顔になっていた。
「きょ、今日うちのクラスに転校してきた子だよ……?」
お父さんの慌てる様子を見て、私も嫌な予感がして心臓がドクドクと大きな音を立てた。
「な、なんでこんなに早くあの子が……!!、帰ったらすぐに引っ越しをするから準備をしなさい!!」
父の急な申し出に驚いて、私は目を丸くした。
けれども父の声は切羽詰まっていて冗談を言ってるようには聞こえない。
だからこそ、背筋が寒くなっていった。
「……え、な、なんで急に?」
「……いいから、早く!!目をつけられたら終わりだ!!」
いつもはのんびりと走る父の運転が今日は酷く荒かった。車から軋む音がして、曲がるときも車体に肩がぶつかって痛かった。でもその文句を言えないくらい父の後ろ姿は青白かった。