第1章 お嬢様、誘惑する。
後頭部がハイセの腕に引き寄せられて。
顔が、ハイセに近付く。
「ハイセ、待っ…………」
ハイセが何をするつもりなのかわかって咄嗟に顔を逸らすけど。
後頭部に回された左手が、それを許さない。
悪あがきなんてする暇さえ与えてもらえず、重なった唇から流し込まれた液体は、簡単に喉を通り抜けた。
「睡眠薬は?はいってない?」
「…………はいってない」
「そう。良かった。皇すぐ寝ちゃいそうだし。…………ああ、そーいえば」
わざとらしく言葉を切って。
わざとらしい声色で。
ハイセが笑う。
「『お嬢様』」
—————ドクン!!
「…………でしたよね、今日は」
何。
今の。
心臓、うるさい。
「効いてきました?これはお嬢様の感度をあげるために作ったものだから、良く効くでしょう?」
「…………何、なんで」
「いつも、これを何倍にも希釈してお嬢様に飲ませてましたから」
「ぇ」
「お嬢様が俺を求めるように。何にも気にしないで乱れてくれるように」
ハイセの指先が、唇を這って。
首筋、鎖骨へと移動してく。
「さすがに原液で飲んだら危なかったかも」
「?」
「これね、アルコールと相性悪いんです」
「…………っ」
全部。
知ってた。
全部知ってたんだ。
あたしがワインに薬いれたの、気付いてたんだ。
気付いてて。
知っててわざと。
「ほんと嫌い、ハイセのそーゆーところ」
「褒め言葉です」
悔しい。
悔しい。
結局いつも。
ハイセの手の中だ。