第1章 お嬢様、誘惑する。
「皇、今…………」
「っ」
だから。
そんな顔、するから。
いいたくなんてなかったのに。
「バカ!!嫌いっ!!ハイセなんてきらいーっ」
涙出そうなの知られたくなくて。
大袈裟にハイセを叩いた、あと。
布団へとくるまってハイセから顔を隠した。
わかってるんだ。
ハイセはあたしとの子供、望んでない。
わかってる。
きっとそれは。
あたしが学生だとか、きっとあたしがまだまだ幼いとか。
仕事が忙しい、とか。
そんな理由。
いつかはほしい、けど。
まだ今じゃない。
わかってる。
わかってる、けど。
「皇」
ほんとずるい。
そんな甘い声。
優しい声。
「俺が悪かった。出てきて。顔みたい」
ずるい。
ずるい。
あんなことしたくせに。
強引に。
気持ち暴いたくせに。
勝手にあたしの気持ち、覗いたくせに。
「あかちゃん、欲しいの?皇」
「…………」
「それと、あれ、どんな関係あんの。言ってくれたらいつだって」
「それじゃ意味ないもん!!」
かぶっていた布団を剥いで、ハイセへと向き直る。
いきなり視線を合わせたあたしに驚きもせずに、ハイセは笑って、あたしの頬へと口付けた。
「意味、ない?」
「…………ハイセは、子供欲しがってないの、知ってる」
「…………それで?」
「…………余裕なくせば、着ける余裕も、なくなると思ったの」
「…………」
ああもう。
ほんとやだ。
引いてる。
沈黙。
やだ。
「皇」
「わかってる!!わかってるよ!」
わかってるわよ。
わかってるけど。
「わかってない、皇」
「え」
「そんな騙し討ちみたいなことして授かったとして、皇はほんとにいい?」
「そ、れは…………」
「皇」
ハイセの両手が頬へと伸びて。
ハイセと、視線が重なる。
「知ってたよ、皇が子供欲しがってたの」
「…………ぇ」
隠しておいた透明な甘い液体。
ハイセはそれを身体を伸ばして掴むと。
残ってた半分、を口に含んだ。