第37章 初めてのヴァレンタイン 中原中也
車内には甘ったるい香りが充満していた。
その香りに俺は酔いそうになり、車の窓を開け換気する。
「中也〜、寒いから窓閉めてよぉ」
「っるせ、手前のその大量の猪口齢糖の匂いで酔いそうなんだよ!」
そう、甘ったるい香りの原因は糞太宰が女から大量に貰った猪口齢糖。
その猪口齢糖を車内で食べやがったせいで匂いが車内に充満しているのだ。
「君と違って私は頭を使うから糖分は必須なのだよぉ、一つどうだい?美味しいよ?」
「いらねぇよ!」
「ねぇどうして君は猪口齢糖を受け取らなかったんだい?」
突然の質問にチラッと横目で太宰を見るとニヤニヤした顔でこちらを見つめていやがる野郎と目が合う。
「、、、好きでもねぇ奴から貰った猪口齢糖なんざいらねぇだろ」
「へぇー、じゃあ君は"ちゃん"からしか猪口齢糖は受け取らないんだぁ」
「チッ、、、」
太宰に云った言葉は嘘ではない。
俺はからしか猪口齢糖は受け取るつもりはねぇ。
だが、果たしてはヴァレンタインデーを知っているのだろうか。
幼い頃から闇の世界で必死に生きていた彼女だ。
恐らく知らないだろう。
別に猪口齢糖が欲しいわけではない、寧ろ甘いのはそんなに得意じゃねぇ。
だが、から、、、愛する女から貰えるとなると話は別だ。
ほんの少し期待をしながら俺たちは拠点へと戻った。