第2章 女子なんてうそだ
「あー、弁丸様。触るのはそれくらいで……」
さすがに不味さを感じたのか控えめに佐助が助け船を出そうとした矢先だった。
弁丸の手が小助の胸を触れた次の瞬間、弁丸は地面にしりもちをついていた。
痛みはない。
が、驚きから言葉が出ず、そのままの姿勢で動けなくなってしまった。
顔をあげた先には、手を前に突っ張ったままのもう一人の自分と、その自分を見下ろす表情をなくした忍びがいた。
もう一人の自分も動けないのか、弁丸を見下ろした姿勢でとどまっている。
「ご、ごめんさ」
「若様。大丈夫? どっか痛めた?」
小さな謝罪は、佐助の配慮の声にかき消される。
弁丸は転んだくらいではケロリとした顔ですぐ立ち上がる質だ。
その弁丸が動くことができないことに不安を覚えたのか、佐助は両の手をわきに差し込み持ち上げて立たせた。
着物についた土を払いながら、どこか怪我をしたのではないかと心配の声をしきりにかける。
弁丸が大事はない。驚いただけだと告げると、ほっと小さく息をつき立ち上がった。
「なにやってんのさ!」
弁丸が無事とわかると、矛先は小助に向かう。
「あっ……」
小助が何か言いたげに口を動かしたがすぐ唇をかむ。
怯えたように潤んだ瞳を伏せ、赤みを失った頬がさらに色を悪くする。
「今のは僕が悪かった。小助は気にするな」
「でもっ」
小助は何かを気にするように目を泳がせ、わかりやすく動揺の色をみせる。
「男に二言はないぞ。気にしなくてよい。佐助もだ」
弁丸は横に立つ佐助の手を引いた。
「俺様もですか?」
驚いたように目を丸めたのは忍びだけではない。もう一人の自分も佐助に似た表情で弁丸を見つめる。
「こたびの件で小助に罰を与えてはならぬぞ。父上様への報告も不要」
「んっんー、それは難しいかなー。俺様の主は若様の父上ですからね。守護対象に怪我を負わせる悪い子を無罪放免にはできないんだわ」