第2章 女子なんてうそだ
佐助に背を押され前に出てきたのは、少年だった。
栗色の髪に見え隠れするのは、赤いハチマキ。頭の後ろで蝶のように結ばれており、一見すると少女のように見えるが、纏う衣は男物。白地の着物に赤の上着を重ね、菊の花を模した結び紐が首から下がる。
身に着けているものは、弁丸とまるきり同じ。
うつむいているせいで顔は見えづらい。一歩、少年の方に歩みを進め、膝を折るようにして下から見上げて、弁丸は大きな目をさらに大きく広げた。
「えっ? ぼ、僕!?」
服装のみではなく、その顔も弁丸と瓜二つだった。
少年のまわりをくるりと一周し、後ろ頭の一部だけが背中の真ん中にかかる尻尾のような髪も同じことを確認する。うつむいていてわかりにくいが、頭の上に手をかざすとだいたい同じ背丈だ。
「おー!!」
弁丸は両手を握りしめ、歓声を上げた。
その反応に佐助は上々と頷き、おずおずとした様子の少年に促す。
「挨拶」
「えと、はじめまして、若様の影武者を務める穴山小助と申しまする。以後よしなに……」
小助はよほど姿を見せることに抵抗があるのか、挨拶もそこそこで佐助の影に戻ろうとするが、それより早く佐助がその動きを封じる。
「影武者?」
「戦での撹乱、弁丸様の代役なんかをやるんですよ」
「そうか! 戦か!……しかし声は僕とは違うのだな」
しゅんと縮んだような弁丸に佐助が笑いながら返した。
「自分の声って案外自分じゃわからないらしいですよ。大丈夫。俺様からしても区別がつかないほど似てますって」
「知らなかった! すごいな、小助は!」
言うが早いがその両手を握る。白く柔らかく見える指先は、豆がつぶれた後で固くなっていた。
豆の位置こそ異なるが、弁丸と同様、努力を重ねた手であることがわかる。
「同じだ!」
弁丸は髪に触れ、肩に触れ、そのたびに「ふむ」と感心したように頷いたり、「おー」と驚いたりで忙しく表情を変える。小助は時折震えながら佐助を横目に見やるが、目を輝かせ高揚感を見せる少年は気づかないようであった。