第2章 女子なんてうそだ
「ならば、僕はおまえを嫌いになる」
「はぁあ?」
「よいのか?」
「いや、全然、よくはないですけど」
佐助が決まりが悪いといわんばかりにそっぽを向きながら頭を掻く。
実際、忍びを使いながら忍びを嫌う主というものはごまんといる。しかし誰も好き好んで進んで嫌われたがる者がいるだろうか。特に佐助はこの未来の主には進んで世話を焼きたくなるくらいの情があった。
だからこそ軽薄な態度をとりつつも、その存在を軽んじることはないのだ。
「僕は将来の佐助の主だ。おまえのことが嫌いな主が、おまえの好きな禄と休暇をあげると思うのか?」
道理のわかっていない子供の脅しに佐助はだらしない笑みを浮かべながら、目を泳がす。
弁丸の言うとおりになるのなら、”普通の忍び”ならもっと良い条件で雇う主を探すだけだ。
それに気が付かず、自信満々といった表情で胸を張る弁丸を見て佐助は頭を悩ませる。
忍びの境遇をわからせるべきか、はたまた今日のところは折れてやるべきか。
置いてけぼりになった当事者の一人は不安そうな顔で事の成り行きを眺めていた。
偽物とわかってはいるが、弁丸と本当に瓜二つのこの顔が寂しげになるのは佐助とて心が痛む。
「わかりましたよ、若様。ただし、今のは俺様以外には絶対に言わないでくださいよ」
佐助はため息をつくと、人好きのする笑みを浮かべて言った。
「子供同士のじゃれ合いに大人が口を出しちゃ野暮ってもんですし」
「おまえだって、そうは変わらないでござろう」
事実上の敗北宣言を茶化して言うと、こぶしを握って弁丸が反論する。
そこで佐助が少しばかりの意趣返しとばかりに声を抑え耳打ちする。
「変わりますよ。俺様は初対面の女の子相手に弁丸様のようなあーんなに破廉恥なことはできませんから」
「おんな……のこ?」
弁丸は目を白黒させながら、もう一人の自分を上から下から見直す。
どこからどう見ても自分。つまり少年だ。だが、忍びの中には変化の達人がいるという。
そういわれてみれば、少し自分より丸みがあるような……そこまで考えて、今までの行動を振り返る。