第10章 お風呂に入ろう
謎かけのような政宗の台詞に顔を隠したままその真意を測る。
すっかり蚊帳の外の宗時もわけがわからないといった表情だ。
「宗時! 何日か前に食った奇妙な菓子覚えてるか?」
「うん? うまいけど、腹の奥が燃えるようヤツとか衝撃的な? えーっとなんたら3種盛り?」
「なら、持ってきたヤツを覚えているか?」
「ええっ!? あー。上田から来たって……ちょいとふくよかな女の子? ダメだ! 菓子の斬新さばっかで他が思い出せん」
「まったく残念な頭だな。その女の顔が昨日のうめと瓜二つなんだよ」
小助は直属の上司に心の中であらんばかりの罵詈雑言を並べた。
上司の許可があってこの姿をとったというのに、それが仇になるなんてと。
「そうだっけ? そう言われれば、膨らみの感じとか……あっ痛!」
木刀が宗時の頂点を打ち付ける。
「痛いって。今、結構、力入ってなかった?」
「くだらねえことしか覚えねえもんなんかいらねえだろ」
「いるよ! 大いにいる! 全国の美女が泣いちゃうよ!」
大の男の嘘泣きなんかに付き合ってられるかとばかりに、軽く足で小突いてどかす。
「さて、小助。いや、うめだったか? まさかどっちも偽名じゃねえよな?」
どちらも小助の本当の名前であるが、今この状況でその弁明を聞いてくれるのだろうか。もし聞き入れられたとしても、変化を得意とする忍びが脅されたからといって自ら正体をバラすなんてことがあったら、兄貴分に別の意味でバラされるかもしれない。
「まあいい。もうアンタの芝居はたくさんだ。本当の顔見せてもらおうか」
最初から小助の答えを待つつもりはなかったのだろう。もったいぶることなく政宗が木刀を構える。先ほどと同じ上段の構えだ。
もうその攻撃を防ぐ鎧はない。残骸を投げ捨て、身を軽くして構える。
間髪入れず、頭上高くから振り下ろされた一撃は、頭の上に跳ねた髪に触れる。もっとも、そのまま綺麗にかち割られるほど小助はにぶくない。即座に体を左に傾け刀を避ける。
だが、初撃が外れたくらいでは攻撃は止まらない。