第10章 お風呂に入ろう
「No problem!」
「ならば、お相手せぬのは失礼というものでござろう!」
鉢巻と背中の尻尾が跳ね上がり、床が軋む音を鳴らす。
「嬉しいねえ。アンタならそう言うと思ったぜ!」
部屋でくつろぐように仕立てられた着流しの袖をまくる。
「伊達政宗殿! いざ、尋常に勝負!!」
「おうよ! 行くぜ! 幸村あぁぁ!!」
「政宗えぇぇ!!!」
ガキンッ
幸村の槍を政宗の刃が受け流す。受けた方とは逆から刃が振り下ろされれば槍がその勢いを阻む。
カッカッと打ち合う音が響き。一段と大きな音とともに政宗の刃が幸村の槍を押す。ジリジリとした力と力のぶつかり合いに両者の武器が震える。
「えっ、ちょっ! 幸村様ぁ! それ本物の槍です! 相手木刀ですよ!」
慌てた外野の声に振り向くことなく、武器を挟んで顔を突き合わせる二人。
「構うな、小助!」
「邪魔すんじゃねえ!」
邪魔も何も政宗を気遣っただけだ。小助の心配をよそに幸村の槍が炎をまとう。
これでは木など一瞬で炭になると、小助が手で顔を覆う。しかし、バチバチと音を立てて政宗の木刀が稲妻を帯びることで応える。
「ただの木刀でなんでさ!!」
政宗の青白い光が幸村に襲いくれば、打ち破るかのごとく高速に槍を突き出す。
武器の差など問題がない。二人がいればそれだけでそこは戦場だ。
打ち合うたびに熱が天井を焦がし、覇気が床を揺らす。
幸村が開けた扉は、誰も触っていないにも関わらず勝手に開閉する。小助が体全体で押さないと動かないほど重厚な扉だというのに。
常日頃から武田の漢達の熱い魂をぶつけ合うこの場。どれだけの鍛錬が行われてもその重厚な柱はすべてを受け止めてきた。それが今、たった二人の若者によって揺るがされている。このままでは壊れる。
かといって、小助の技量ではとてもではないが、あの怪物ふたりの間に入ることはできない。
「ちょっと、あなたも止めてくださいよ!」
横でぼーっと突っ立ている宗時の袖を引く。
これでも政宗の従者だ。きっとすごい武勇の持ち主だろうとすがる思いだった。