第10章 お風呂に入ろう
「That's right。わけのわかんねえとこに置きやがって。いくら考えてもわからねえ」
「それは……その布石で……」
「デタラメほざくんじゃねえよ!」
歯切れの悪い弁明を強い口調と向けられた刃先が阻む。
びくりと小助の肩が大きく跳ね上がる。
「いくら考えてもわかんねえはずだよなぁ? あれは本当になんの意味のない石だったんだからな」
「へっ? 意味ないの?」
「Ah~、そうだな。意味がないわけでもないな」
「どっちだよ!」
宗時は理不尽さに上げた片足を勢いよく床におろす。
静かな建物内に宗時に怒りが響いた。
「無意味な石でその後ずっとオレの動きをcontrolしてやがっただけだ」
「こ、こんとろーる?」
「『操る』」
面倒くさそうに政宗が吐き捨てる。だんまりを決め込む小助を宗時が代弁する。
「単に梵がいいようにやられて怒ってるだけじゃん! 相手の動きを操るのだって策のうちじゃねえの?」
「察しの悪いヤツだな。だからだ! オレの動き抑えておいて、なんでそいつが『負け』なんだ?」
「あっ!」
目を大きく見開き、庇っていた小助の方を振り返る。
未だに小さく震える少年を目の当たりにして、顔を歪める。
宗時自身が政宗に逆らえないように、少年も彼をここに寄越した忍びには逆らえないのだろう。「客人を喜ばせろ」という命令に従い彼なりに善処した結果としては本当に気の毒でしかない。
「そうかもしれないけど、それは梵が同盟相手だからだろ。小助君だって上の命令で……」
「それだけじゃねえよな、うめ」
「うめ? 昨日お前がお持ち帰りした子?」
宗時の雑な思い出の発表に一瞬、政宗の形の良い眉がぴくりと上がる。が、そこには触れずに、ものを言わない小助の顔を凝視する。
「なんでわかったんだって?」
政宗は自分の額を人差し指の腹で叩く。
「臭うぞ」
言葉の意味が理解できないというような表情した数秒後、小さく声をあげて額を抑える。青白かった顔に血がかよい、手で覆っていない耳が赤く染まる。
政宗は愉快そうに声を立てて笑うと機嫌良く続ける。
「ついでに言うとな、『昨日のアンタ』にオレは会ったことがあるんだぜ」