第10章 お風呂に入ろう
がぎんっ!
鼓膜を突き破らんばかりの衝突音。カラカラと音を立てて板張りの床を回りながら距離を稼ぐ木片。対峙する政宗の手に残る木刀は随分と短くなっていた
政宗の会心の一撃を防いでいたのは、皮肉なことに攻撃者に捧げていた鎧だった。功労者を労おうと、逃がしきれなかった衝撃に痺れる腕をなんとか引き寄せてみて、小助は大きく震えることとなった。
身代わりとなった胴台は、規則美しくつなぎ合っていただろう竹の真ん中に引き裂かれた傷が痛々しい。どう紡ぎなおしても胴としては使うことはできないだろう。もし、今の一撃を防ぐことができていなかったら、と想像して背中から髪の毛の先まで冷たいものが通り抜けた。
「悪りぃな。壊しちまった」
言葉とは裏腹、少しも悪びた様子なく、短くなった木刀を放り投げる。
それは歪な軌道を描きつつ音を立てて転がって、元は一つだった切っ先に並んだ。
もしもの自分を連想して、小助の顔から血の気が引いた。
「宗」
「あいよ」
政宗が短く呼ぶと、待っていましたとばかりに宗時が新しい木刀を投げる。
雑な軌跡を空に描いて、政宗を前にして床に落ちるところであったが、受け取り手がうまかった。
片足を浮かせて体のながらも床につく前に手にした、ヘタクソと小さく吐き捨てると、決まりの悪さを断ち切るように一振りした。
「ほら、アンタも構えな」
客人の無茶ぶりに小助は無言で首を振る。
「遠慮すんなって。ほれっ、もう一戦なさいますか?」
碁の後の小助の台詞だ。あざ笑うような様子にも怒りより恐怖が勝つ。
「そんくらいにしてやりなよって。可哀想で見てられないよ」
後ろの龍が小助のつむじをかき混ぜる。青ざめた顔を向ければ、ニカリと白い歯を見せる。
「可哀想なのはこっちだ」
二の句が繋げない宗時を一瞥すると、わざとらしくため息をついてみせた。
「手合割はなしでってアンタが言ったんだよな」
台詞だけなら、小助に問いかけるようにも見えるが、その声音は回答を許しているようには聞こえない。
「八手目だ。普通ならオレの石が寄ったら、応えるもんだろ? なのになんだってんだ?」
「あー、さっきの碁の話かー」
宗時が合点がいったように握った手でもう一方の手の平を叩く。