第10章 お風呂に入ろう
「そういえば、今、ここで療養してるっていうお侍様もすごく綺麗なお顔立ちなんだって」
うきうきと足取りの軽いふく。対するうめは眉間にしわを寄せて険しい顔をする。
綺麗なお顔立ちのお侍様と言われていくつか思い浮かぶ顔はあったが、良い思い出がひとつもない。
「うめそういうのはいい」
うめがげんなりとした後にその足を止める。
不思議そうな顔で振り向くふくに、うめは首だけでこちらに来るように示す。
「どうしたの? やっぱりそれ重い? 少し休む?」
「なんかちょっと」
「? 早く行こうよ?」
廊下の奥から漂うただならぬ気配。足元について回る影も心なしか濃い色を見せる。しかし、いつまでもここにいると先輩女中に怒られるかもしれない。先を歩くふくに追いつくべく、重い足取りで続いた。