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【戦国BSR】幸村の影武者の非日常的な日常集

第10章 お風呂に入ろう


靄を振り払って現れたのは、真田幸村だった。佐助はよく目にする主の見たことがない姿に腕を組んで唸る。

「マジですごいな。違和感がまったく仕事しないわ」

佐助の賛辞に幸村が目を輝かせ、得意げに胸を張る。

「とーぜんでしょ! こんなこともあろうかと、うめの着物はみーんな幸村さまに似合うのにしてるんだから」

「しょうもないことに、気まわしてるな」

「超大事! 幸村さまに恥とかうめかかせらんないもん」

唐紅を見せびらかすようにくるりと回ってみせる。うめが着ていたときは可愛らしく見えていた着物だが、幸村が纏うと、より赤の深みが増し、可愛らしさよりもしっとりとした艶が出る。
口では否定しつつも、その努力についつい目をやってしまい、慌てて佐助はかぶりを振った。

「今回は旦那じゃない方がいいんだけど、他の人になれないか?」

「最初に言ってよー。うめ疲れてるんだから、何回もできないんだって」

「あー、悪い悪い。館の人間じゃない方がいいな。顔立ちだけいじるとかできるか?」

「うーん、具体的なのじゃないと……館にいない人ならこんなのはどう?」

小りすのように可愛らしく小首をかしげる真田幸村に靄がかかる。
靄が晴れると、ふっくらとした丸顔の少女が現れた。それは佐助もよく知る人物だ。

館に訪れることのない人物なら問題ない。一時的な逗留を目的とする客人ならばどこの誰と瓜二つであることに気づくことはないだろうと、了承の意味をこめて佐助は大きく頷いた。


******


ここ数日の躑躅ヶ崎の館は特に忙しい。

常であっても家臣や近隣諸国の使いなど来客の多い場所であるが、数日前の天下を揺るがすほどの大きな戦に起因する同盟国との合議やら宴やらに参加する人間が列をなしていた。不特定多数の人間が出入りすれば、当然その中に不届きなものも紛れ込むことを考えなければならず、真田忍隊はその末端まで身辺調査、尾行に駆り出される。

また、戦で深手を負った兵の療養もここだった。
武田が誇る温泉は、早期の傷の回復を促すということで、それ目的の軽症者まで留まる始末だった。

要約すると、とにかく人手不足の中、都合よく戻ってきたうめが休めるわけないということだ。
姿が別人だろうがなんだろうがうめと名乗れば、その扱いに容赦はない。
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