第8章 あまりに突然でびっくりしました
「あっぱれじゃ! 幸村!」
ぱんっと信玄が自身の膝を叩き幸村を称賛する。
「此度の戦は、お主の策で挑もうぞ」
「おぉ! お館様っ! 某、必ずやお館様のご期待に沿えてみせまするぅ!!」
はたから見れば、大げさなそぶりで幸村は喜びを表現する。
佐助は口の端を引きつらせ、罪のない地図が巻き込まれることがないよう手繰り寄せた。
その配慮を存分に生かし、顔を突き合わせる、主二人。
「幸村!」
「お館様っ!」
「ゆきむらぁあ!」
「おやかたさまぁあ!」
互いの名を呼び合う音に柱が軋む。拳を握り立ち上がり、顔が近づくほどの距離に近付いたとき信玄は、眉を下げ優しい笑みを浮かべた。
「ふっ、小助。お主もなかなかやるようになったのう」
「ええっ! お気づきでしたか!!」
姿こそ幸村ではあるが、甲高い少女の声がこぼれる。
拳を握っているのは同じだが、拳が肘よりだいぶ内に入り、どこか愛らしさを感じられる動きになる。
「このワシを欺くことができると思うてか……と言いたいところじゃが、途中まで気づかんかったわ」
「えへへっ、途中まではいけてたんですね! どの辺が幸村さまっぽくなかったですか」
小助が首をかしげると、信玄は満更でもないように頷いた。
「そうじゃのう、やはり熱じゃ」
「熱?」