第8章 あまりに突然でびっくりしました
「……という見方が強いということでござりまする」
「なるほど、兵をあげるのは時間の問題ということじゃな」
畳敷きに地図を挟んで信玄と幸村が向かい合う。
和平交渉がうまくいかないとなると、攻められる前に攻めることも考えなければならないが、敵地への道は険しい。
武田から攻めるとなると、補給も考えて進まなければならない。
顎の下に指を這わせ整えた髭を弄びながら、硬い表情を見せる。
「ふむ。佐助、お主はどうみる?」
信玄の呼びかけに、音もなく佐助が姿を見せると、幸村は慣れたように席を譲る。
膝をつき、地図を囲む仲間に加わった佐助は、ふたりが示した場所から離れた場所に指を這わす。
半円を描くように動かすと、主たちが頷きをみせる。
「僭越ながら、敵の根城に最短距離で向かうと、足場の悪い山道を通ることになりますね。たとえばここ、道の一番細い箇所の上に伏兵を置かれると、矢や石の餌食になる可能性があります」
「それで遠回りして平原から突き切るというわけじゃな」
「そうですね。ただ、向こうも同じ考えなら、平原に多く兵を置く可能性もあるかと」
佐助は己で示しておきながら、渋い顔をして一ヶ所を指で叩く。
「全面対決となれば、兵の多いこちらの勝ちだが、本丸を責める前、被害は最小限にしたい……か」
「では、ここはいかがでござろうか」
信玄と佐助の話を聞いていた幸村が、最短距離の山道のさらに上を指さす。
地図に道はない。
「へー、旦那。いいとこに目を付けたね。たしかにそこには道がある。けどね、傾斜のキツい獣道だ。この大所帯じゃ動けないやつが出るかもしれねえ」
「武田の騎馬と忍びならば、どうということはないだろう。少数精鋭で敵の伏兵を襲撃、残りは安全を確保したうえで進めばよい」
「ああ、それなら何人か行けそうなの見繕えるよ」
佐助自身、偵察の際に通った道だ。騎馬での山道は相当の慣らしが必要だが、平素訓練を重ねている武田軍ならば、多少荒い進行にはなるが、十分に駆けることができる。