第8章 あまりに突然でびっくりしました
「幸村は熱い!」
「幸村さまは熱い!」
「もっと熱く! もっと滾るのじゃ!!!」
「おーー!!! お館様ぁぁああ!!!!」
「小助ぇええ!!!!」
名を呼び合う二人の熱が高まる。焦りを見せたのは佐助だ。
両者の横で両手を振りながら、そろそろ、ね。もう抑えてと鎮静化を図るが、熱く滾る主従には届かない。
小助の動きも可愛らしさを潜め、幸村並みの熱と男気を帯びてくる。
「おやかたさばぁあああ!!!!」
「こすげぇええええ!!!!」
一際大きな掛け声と共に信玄の熱を帯びた拳が、小助に向かって風を切る。
「待った、大将! それ旦那の姿してるけど女の子だから!!」
佐助が小助を背に庇いこれで終焉としようとしたが、信玄はニヤリと意味深な笑みを見せる。
背中に冷たいものを感じた佐助が逃げの体制をとったが、遅かった。
「ならば、佐助ぇえ!! お主が男を見せろぉぉお!!!」
真っすぐ小助に向かっていた拳は、強引なほどその軌道を逸らされた。
反動でひねりを加えられた恐ろしい凶器となり佐助を襲う。
当たる瞬間まで、それはひどく遅く見えた。
「はぁ? えっ!!! ふぐぉおああ!!!!!」
恵まれた反射神経でもさばき切れず、振りぬく拳の軌道で吹っ飛んだ。
横で小助が佐助の顔が歪むさまを目の当たりにし、いいなあなどと感想を述べていたが、佐助にはもう何も聞こえなかった。
後日、才蔵が率いる真田忍隊が山道に潜伏した兵を壊滅させ、信玄より褒賞が出たという。