第7章 おやつをたべよう
「佐助! またうめを虐めておるのか!」
「うわっ、旦那、店の中で待ってろって言っただろ」
一触即発の中に割って入ったのは、二人の主だった。
主の前でうめを暴くこともできず、佐助は渋々といったように手を離した。
佐助を一瞥もせずうめは襟を正す。
「お主らがいつまで経っても来ぬから、呼びに来たのだろうが! 茶が冷めてしまったぞ!」
佐助とは別の理由でだいぶご立腹の様相を見せる。
「そいつは悪かったけど」
罰が悪くなり、頭を掻いてそっぽ向く佐助。近づく主の気配にも気づかないくらい頭に血が上っていたとはさすがに言えない。
佐助が手放したうめをちらりと見てから幸村は言った。
「今度はなんだ? うめが何をしたのだ?」
「うめのやらかし確定ですか!?」
うめの訴えを目だけで制する。
日頃が日頃だけに幸村もうめの扱いは心得たものだ。
「そこのうじ虫がくノ一の修行をすっぽかしたんですよ」
馬鹿馬鹿しいとばかりに佐助は幸村に告げ口する。
佐助の背にこぶしをぶつけるうめに幸村がじろりと強い視線を浴びせる。
「うめそれは真か?」
うめは視線を泳がせ、両手の指をもじもじと動かすが、主の圧の方が強かった。
もうこれ以上絞れないくらい苦々しい様子で肯定を口にすると、かっと火が付いたように幸村の勢いがつく。
「修行を怠るとはなんたることだ! いざという時に己を救うのは日々の鍛錬でござる! うめの力はお館様の力! いつ何時でも全力を尽くさなくてどうする!」
こぶしを握り熱弁を振るう幸村。その熱で周囲の気温が上がり、冷や汗以外の汗がじわじわと滲んできた。こうなるとうめは勘弁したように頷くしかできない。
しかし、幸村は突然矛先を変えた。
「とはいえ、佐助! うめが嫌がるのを無理強いするのもどうかと思うぞ。お前はいつもうめにきつく当たり過ぎだ」
「俺様だってこいつが素直なら優しくするって。今回は特に念入りに」
幸村は目を閉じ、腕を組む。ふたりの忍びは息をのんだ。たかが道端に生える一本の草ごときに本気になる主。かつて、この人のためならどんなことでも耐えられると誓った。