第7章 おやつをたべよう
それを私情で裏切ることに胸が苦しくなる。修行を受けたところで何が変わるということはない。ただうめが我慢すればよいだけだ。うめは佐助に目配せすべく視線を飛ばす。同じようにうめを見ていた佐助は頷き、口を開こうとしたところで、幸村の目がかっと開いた。
「うめ! 辛い修行ならば俺も付き合おう!」
閃いたとばかりの明るい表情。
「くノ一の修行を……幸村さまが……」
幸村の方をちらりちらりと伺いながら、耳まで赤くしながらつぶやくうめ。
そのいかがわしい妄想を断ち切るように佐助はうめを押しのける。
「ちょっとちょっと! 旦那にそんなの無理に決まってるでしょうが!」
「何を言う。お主にできるなら、この幸村にもできよう! 修行とあるのものなら、なんであろうと乗り越えてみせるぞ!」
「幸村さまとなら、うめ頑張れます!」
「お前も何言ってんだ!」
間髪入れず、突っ込みを入れるが暴走者ふたりは聞く耳持たず。
「よくぞ申した、うめ! お館様のため共に試練を乗り越えようぞ!」
「はいでござるぅ!」
修行の内容がどんなものかもわからずに燃える幸村。
背景に花を散らさんとばかりな乙女の表情でうめが続く。こちらは修行の内容も主が誤解していることももちろん知っている。
佐助は本日何度目になるかのため息ついた。
他の誰にできたとしても、幸村にだけはくのいちの修行をこなすことはできないだろう。仮にできたとすれば、幸村の行き過ぎた反応には手を焼いており、この機会に女子への苦手意識が克服できて、あわせてうめの修行も片付くのなら、佐助としては万々歳……。
とはいかないあたり、さらに頭が痛い。
「勘弁してくれよ。あー、俺様甘いもの食べたくなってきた」
「そうであった! 上田名物三種盛りが待っておる!」
佐助のやや強引な話の切り替えにあっさりと幸村が乗ってきた。
「いくぞ、佐助! うめ!」
「はいはい、了解っと」
「はい、幸村さま!」
幸村が勢いよく天に拳を突き上げると、お付きのふたりも合わせて拳を上げる。
片方は、気だるさを隠しもせずに。片方は、小ぶりな動作で可愛らしく。
主と妹分に暖簾をくぐらすと、その背中でやれやれと呟きながら佐助はこっそり鳥を放った。