第6章 独眼竜が出てきたらどうしよう
起こした火が部屋を暖めた頃、小助は政宗の怪我の手当てを終えた。
あの後、程なくこの集落にたどり着くことができた。正確には、集落だった場所。住み人にうち捨てられた家。
そこまで来て、この場所は小助が視察したかった場所のひとつであることを思い出した。
流された先が勝手知ったる武田の領地だからか、いくらか持ち直した気持ちであばら家をのぞき込む。
人のいない住居はあちこちが朽ちていたが、元の住民が残した生活用品も残っており、一夜を凌ぐには十分すぎる宿だった。
小助は、政宗の両腕を持ち上げ、自分の体を挟むようにして引きずった。上半身は重いが、足を持って引きずって頭を打ち付けるのは気の毒だったからだ。
運搬中、幸いなことに、政宗は目を覚まさなかった。小助としても、もう変化するほどの体力はない。この状況で駄々をこねられたらたまったものではないから好都合であった。
政宗が眠っていることをもう一度確認すると、小助は泥と土埃にまみれた上着を脱いで、袖と袖を掴んで広げる。
後身頃を中心に擦り切れや、何かが引っかかって破れた後があり、衣というよりボロ切れのようだった。
が、前身頃は泥で汚れてはいたものの生地に傷んだところはほとんどない。
小助自身にしてもそうだ。
背中、ふくらはぎなど、背面は切り傷、打ち身が多かったが、守りの薄い胸や腹は元からある傷だけだ。
特に顔は一つの痣すらなかった。
小助は細い記憶の糸を辿る。
流される前の記憶。覚えていたのは、政宗の台詞だけではなかった。
小助が掴んでいた政宗の腕。それが強く引かれたのだ。
そして、胸に抱き込まれた。
それが最後。