第6章 独眼竜が出てきたらどうしよう
「Ah? マジでやんねえのかよ! はるばる来てやったってのによ」
誰も頼んでいない。押し売りもいいところだ。
奥州というところは、先触れもなしに殿様がひとりでノコノコ敵地に赴くことを良しとしているのか。
あの右目がそんなことを許すわけがない。まだ少し音は遠いが、なにかが動く音がする。
この自由な不自由人を探す哀れな捜索隊がいるのかもしれない。
「You’re keeping silent,right? そっちがその気ならやる気にしてやるぜ!!」
切っ先が小助に向く。万一防ぐのに失敗したら、六枚下ろしが決定する。
まずは後ろに下がって距離を稼ごう。というところで、小助の耳が先ほどよりも大きな音を拾う。近づいている。
馬がいるにしろ、山を進むには早すぎる。なによりこの音。生き物が発するものとは思えない。
空を鳥の集団が飛ぶ。
小助はその方向を見て確信した。
どんよりだった空が真っ黒に染まっている。これはまずい。
槍を背に担いだまま、臨戦態勢の政宗につかつかと歩みより、籠手で守られた腕をとる。
「危ねえじゃねえか!!」
命を狙っておいて危ないも何もないが、政宗が慌てて小助の腕を払い刀を引く。
「来い!」
小助は有無も言わせない迫力で押し込める。
「なんだってんだっ!!」
意外にも政宗は抵抗せずに、刀を鞘に納めてくれた。小助が再び政宗の腕をとると、眉を顰めたものの、小助に導かれるままに続いて駆けた。
足場の悪い山道のこと、慣れない政宗が躓けば、即座に体制を立て直せるよう絶妙な加減で腕を引く。一人分しか通れない木々の間は体を捩じらせ政宗が余裕で通れるよう道を譲る。成人男性がお手々つないで走るという格好の悪い状態を除けば、はっきり言って政宗がひとりで走るよりも遥かに走りやすい。
「お、おいっ、説明しろっ! どういう状況だ!」
「氾濫でござる」
「Ah? 反乱だあ? アンタんとこどうなってんだ?」
「たぶん意味違うし! いいから、早く!」
「なんだありゃ?」
驚愕の声を上げる政宗を振り返ったところが、小助の最後の記憶になった。