第1章 独眼竜なんて怖くない
「佐助ぇえ! 真剣勝負に横やりを入れるとはどういう了見だ!!」
政宗が叫び声を上げるしかできない頃。
幸村も従者に対して抗議の声を上げることしかできていなかった。
「この幸村、一騎打ちを逃げたとなればお館様に合わす顔がござらん!」
従者こと佐助の片手は、幸村に軽く添えられているように見えるが、その実しっかりとその動きを押さえつけていた。かろうじて自由にできる足を申し訳程度にバタつかせるが、そんなささやかな抵抗も佐助は意に介さないようで、巨鳥と共に行く先から視線を外すことはない。
政宗に対しては意欲的に茶々を入れていたというのに。幸村に対しては実に淡白にふるまいだ。
それも致し方ないこと。佐助は怒っていた。
今から数刻前、この主は法螺貝の音と共に戦場を風の如く駆け、向かい来る敵を燃えさかる火の如く滾る熱い魂のみで突き抜け、敵の防御壁を散り散りにするという智将を父に持つとは思えない無謀な策(略して無策)を成し遂げたのだ。
佐助とて、今日はまたいつになく苛烈だこと。などとただ遠巻きに見ていただけではなかった。
忍びの秘技を余すところなく使い、主の背中を狙わんとする弓兵を引き裂き、四方を囲おうとするその槍を退け、土煙と血の匂いを漂わす戦場を駆けて駆けて、駆けること馬車馬の如しと表現しても許されるだろう働きをみせた。ここまですれば褒賞をと、主を仰げば、そこにいたはずの人はいなかった。
自然には絶対に溶け込むことのない赤備えも、どこにいても響く通りの良過ぎるおたけびも、火薬いらずの爆発っぷりもがどこにもない。
いるだけで敵味方の誰もが目を奪われるあの人を見失うというのはどういうことか。
失態どころの話ではない。なにが優秀な戦忍びだ。お目付け役だ。
無名の雑兵ごときが一撃などまずありえないが、戦場は多勢に無勢。絶対はない。
なにかの、まさかのなんてあったとしたらと最悪の考えがよぎる。
佐助はさらに駆けた。向かい来る敵も来ない敵も切り捨て、喉が切れるほど名を呼び、ほうぼう探し尽くし、ようやく捕獲した。
というのにだ。
雷の気質とは知っていたが、どんな毒電波で主を探したのか。
尻まで青い尺取り虫に後れをとったことが気に食わない。