第5章 普通に怖いな
「これ城下でやってみ、忍びやるよりよっぽど稼げるぞ」
さっさとお役目の袋を放り出し、後ろ足で穴を掘るうさぎを見ながら目じりを下げる佐助。
「それならもうやった。猫いっぱい集めて、お店の人にいっぱい怒られたよ」
あの日は幸村への贈り物を買う費用を賄うためにやったのだが、結局、徒党を組んだ猫の被害の弁償でただ働きをする羽目になった。涙ぐむうめに同情した団子屋のおかみからの駄賃でなんとか幸村への土産は手に入れられたが、街中では二度とやらないと決めた。
「寄せられる動物選べないのかよ。もの運ばせるなら熊とか狼とかの方がさ、いいんじゃないの?」
佐助の何気ない一言に首がもげるのではないかというくらい左右に振る。
「無理無理無理! めっちゃ怖いじゃん! 対価でうめ食べられちゃう」
「おまっ! 力づくで従えらんないのかよ! このリスにさ、一体どんな対価やってるわけ?」
「どんぐりみっつ」
「安っ! 俺様よりも薄給!!」
「どんぐりを甘く見ないで! 秋にいっぱい集めてるんだけど、置いとくとうねうねが……」
「なるほど。忍び小屋のアレは、お前が原因か」
「えー、あー、長、影の出し方を教えてください」
「後で覚えてなよ……。今見ての通り、闇属性ってのは怒りとか悲しみみたいな負の感情に直結してるわけ」
雉も鳴かずば撃たれまい。余計な話をし過ぎたとばかりに、無理やり本題に戻す。
佐助も”長”の一言に仕事に切り替える。普段佐助、うめと名前で呼び合うふたりであるが、仕事の際は、真田忍隊の長とその配下、穴山小助と呼び方を変える。
佐助が長を務めるようになってからの約束であった。
「つまり怒ればいいってこと? 長のおーぼー、きちく、はっきゅう、かすがちゃんの尻ばっか追っかけてはれんちー」
「すごいなー、小助。俺様の闇が深くなったぜ」
佐助の背後に黒いもやが立ち込める。ただならぬ雰囲気に森の動物たちが散り散りに駆けだす。
その背を追って逃げようとして、小助はつんのめった。佐助の足が小助の影を踏みしだいていた。