第5章 普通に怖いな
「で? なんだって俺様に化けてたんだ?」
廊下で騒ぐなと才蔵に怒られて、縁側に移動したふたり。
並んで仲良く隣に並ぶ。迷彩忍び。佐助たっての”お願い”で変化を解いたせいで衣装がお揃いになってしまった。廊下を歩く女中にあら、仲良しさんね。などと声をかけられたのは一度や二度ではない。
ずんっとうんざりした表情のうめとは対照的に佐助の表情は明るい。
「影の中に入りたいなって」
「はぁ? お前いつも俺様に化けてるときやってんじゃない?」
「佐助になればできるんだけど、化けてないと影出なくて」
佐助から大型手裏剣を借り受け、中庭に立ちクルクルと回す。
仕込まれた鎖を使い自在に扱う手つきは佐助から見ても佐助そのもの。
しかし、どれほど慣れた動きを見せても、闇の気配は感じられない。
「うめのは特殊だからなー。形から入らないと駄目ってか?」
「そうかも。だから衣装とか小道具とか増えちゃって。それを影にしまえたらいいなとか」
忍びの技の多くは印を結ぶことで発動する。その中には小道具を使うものもあるが、変化対象に合わせて小道具を変えるうめの技は特別珍しい。
「あれを物置にしようって」
佐助はそこまで考えて顎に当てていた指をうめに向けた。
「……まてよ。うめ、お前いつも旦那の……」
佐助の指先と視線がうめの胸部のあたりを彷徨う。
その邪な両者を遮るようにうめは慌てて両腕で抱えて隠した。
「わー! 何想像してるの! 佐助の破廉恥!!」
「いや、俺様よりお前のがよっぽど破廉恥だろ! 戦場を半裸でかけまわるって!!」
「幸村さまにお胸隠すように言ってよ」
「うめが丸出しの破廉恥女になるから止めてくださいってか」
「丸出しじゃないもん! 変なあだ名つけないでよ!」
「で、いつもはどうやって運んでるわけ?」
「ううっ。いつもは口寄せの術で森の動物さんたちにお願いしてる」
うめが口笛を吹くと、りす、うさぎ、きつね、ひよどりたち小動物がひょこひょこと集まってくる。
袋の大きさは大なり小なりあるが、皆自分の体よりも大きな袋を引きずっての登場である。