第5章 普通に怖いな
--ドンッ。
顔の横に突かれた手。
壁を背にして滑り落ちるように尻餅つく猿飛佐助。
ガチガチと震った歯を鳴らし、顔面蒼白。見るも無残な姿。
「こういうの壁ドンっていうんだってさ」
いつもより低い声でいつもどおり茶化した言葉を使い、恐怖心を誘うこちらもまた猿飛佐助であった。
座り込んだ佐助は、恐る恐るその顔を見上げてすぐに伏せた。見下ろす佐助のこめかみには青筋が立ち、口元だけ見ればたしかに笑っているのに、その目は少しも笑っていない。
「これさ、女の子の憧れらしいんだけど、今どういう気持ち?」
「吐きそうかも」
佐助は座り姿勢のまま、その包囲網を抜けようとして、佐助の長い脚に阻止される。
「俺様の姿で俺様の前に出るなって言っただろ」
「そんな怒んなくたって」
「自分と同じ人間を二回見ると死ぬって伝承があるんだよ。明日敵地の偵察なんだからやめてくれない」
「迷信ごときでうめ、潰されかけたの!?」
「んなわけないだろ。ただの、ウ・サ・バ・ラ・シ」
最後に片目を閉じてお茶目を演出していたが、怯えた方の佐助に化けたうめは恐怖しかなかった。