第4章 だけどちょっと休みたい
「当たったら首、絶対にやばかった!」
幸村は才蔵の姿を確認すると、後ろに手をつき、だらしなく足を伸ばし上を向く。
とたん幸村の姿でありながら、幸村らしさが霧散する。
「当たらなかったのだからいいだろう」
腕組みし悪びれもなく主を見下ろす才蔵に、幸村はわざとらしく手の平にふーふーと息をかけてみせる。
うまく受け取れたからよかったものの直撃していたら、シャレにならない重さだった。
現に受け止めた手には、たらいを締める縄の後がくっきりと残っている。
「よくないし、手ジンジンしてるし! しかも才蔵、うめが受け止めたとき舌打ちしたでしょ!!」
「気のせいではないか。俺は弟子の成長を喜んでいただけだ」
ハッハッハと乾いた笑いが続く。
「うそつきの顔してる! このたらい天井の仕掛け板より大きいし、どうやって落としたのさ」
じりと才蔵をにらみつけてから、天井を指さす。羽目板は仕掛けが施してあり、一部は外して出入りができるようになっている。もっぱら使うのは忍びであるが、いざという時には城外への抜け道にもなる。
畳の下にも通路はあるが、上からたらいを落とすには天井以外ありえない。しかし、この洗濯にも使う大きなものをどうやって天井に持ち込み、落としたのか。
「忍びのやることさ、なんでもありだよ」
「それ才蔵が言っちゃうんだ……」
がっくりと肩を落とす幸村。
「お前こそ主の楽しみを横取りしようとは、どういうつもりだ?」
「疲れたら休む。これ自然の摂理なり」