第4章 だけどちょっと休みたい
「それらしいこと言えば押し通せるとでも思っているのか! 疲れたも何も、お前大したことしてないだろう。先ほどの書状は何もせず投げたではないか?」
才蔵は書類の山より一番上の書状を手にし、広げてみせる。
切れるところのない流れるような美しい字と言えなくもないが、才蔵からすれば意味のなさない模様のようにしか見えなかった。大方読むのを諦めて投げたのだろうと、半眼で主の姿をした弟子を見下す。
「崩さないでよー。その山は幸村様じゃなきゃダメなやつ」
果し合いの申出なんてうめが受けられないでしょ。と続けると才蔵はこれが読めたのかと大げさに驚いて、別の山を指さす。
「これは」
「返事は書いたけど、念のため中見てほしいやつ」
先ほどの家臣が持ち切れず落としていった紙を広げて、眉を寄せる。
「この治水の嘆願はなぜ承諾しなかったのだ?」
「こないだ偵察のついでに寄ってきたんだけど、毎年氾濫するからみんな引っ越しちゃったんだよね。こっちの川の方が田んぼとかやってる人多いから優先したの。人も物も限りがあるから全部はできないしさ」
書状を元に戻しながら、感心したように大きく頷く才蔵。
「ほお、きちんと考えているのだな」
「えへへ、うめえらい?」
「ああ偉いな、今度は本当に成長をかみしめている」
「やっぱりさっきの嘘じゃん」
「ふっ。もう休憩はいいだろう。さっさと片付ければ、主が戻ってきたとき団子屋に誘ってもらえるかもしれないぞ」
それいい!と明るく返事をすると、筆を持つ。
とたんに幸村が幸村らしくなり、すらすらと幸村の文字が書き連ねられた。