第4章 だけどちょっと休みたい
礼をひとつ述べて出ていく男を見送り、再び文机の前に陣取ると組んだ腕を頭の上に伸ばす。
一伸びして新たな気分で次の書礼札に手を伸ばしたところで、再度声がかかる。
「幸村様一つお伝えし忘れていたことがございます」
「なんでござる?」
「団子屋の主人より、新しい甘味ができたので幸村様にぜひと言付かっております。上田名物三種盛りとかなんとか」
「まことか! すぐに行……」
そこまで言いかけて、さっと、両手を頭の上にかかげる。
その手のひらが上を向いたと同時に木製の”たらい”がぴったりとそこに収まる。
突如、音もなく天井から落ちてきた”たらい”。
構えていなかったら、頭を直撃していただろう。
「幸村様?」
言葉を途中で切ったことを不審に思ったのか家臣の声がかかる。
「すまぬ、すぐには行くことができぬゆえ。また日を改めて行くと伝えてくれぬか」
「承知しました。あまり根を詰め過ぎぬようお気を付けください」
「心遣い痛み入る」
家臣の足音が遠ざかったのを確認し、たらいを床に置く。
「さて、才蔵よ。主の頭上にたらいを落とすとはどういうつもりだ」
音もなく現れる男。闇色の髪に同色の衣。猿飛佐助よりもよっぽど忍びらしい忍びであることを売りにする。真田十勇士が一人、霧隠才蔵その人である。