第4章 だけどちょっと休みたい
背筋を伸ばし文机に向かう真田幸村。
その赤い出で立ちと燃え盛る炎のような激しい戦いっぷりから紅蓮の鬼と呼ばれる男も一度戦場を離れれば、主より任された地を守る領主となる。
人は石垣、人は城、人は堀というお館様の言葉を胸に日夜、民のため役目を果たす。
書状に目を通しては、筆を墨に浸し、生真面目な性格を映したかのような字で書きつづる。
墨が乾く前に次の書状に手を伸ばし、最後まで黙読してから後ろに放った。
このところ戦続きでこなせなかったことが響いてか、文机の横のみではなく、部屋にはいくつもの書状の山ができていた。
軋む音が近づくのが耳に入り、幸村は筆を止め顔をあげた。
「幸村様、入ってもよろしいか」
障子に人影とその横にある山のような塊が目に入り、幸村は小さく息をついた。
追加の書状が届いたようだ。
「大事ない。入るがよい」
障子戸が開き、見知った家臣が顔を出す。
「追加か」
幸村の渋い顔に家臣は苦笑いを浮かべる。
「先日からの長雨が影響しているようで、それ関係の陳述が多く」
「確かにあれには参ったでござる。予定していた行軍よりだいぶ遅れてしまって」
「それは大変でしたね。幸い今日はよく晴れておりますよ。外で羽を伸ばされてはいかがでしょう」
朝から籠りきりの主を心配してのことだろう。幸村がいないと道場の熱が上がらないと、いつもの幸村なら裸足で駆けだしたくなるような嬉しい一言まで加えてくれる。
「お気持ちだけ頂戴仕る」
「なんとどこかお加減でも優れないところが」
「これに急ぎがあるかもしれませぬ、まずは目だけでも通さねばなりますまい」
「なんと! 立派なお志、感服いたしました」
「すまぬが、戻りついでにこちらを届けてはくださらぬか」
幸村が山一つ抱えて渡すと、受け取った家臣が姿勢を落とす。
「承知いたしました。では」
想像より重かったのか来た時よりもよろよろとした歩みの家臣に代わって、幸村は障子戸を引いた。