第3章 瓜二つでみまちがえた
「ということで、家は次男の義弟が継ぎ、私とこの子は生家に戻されることになりました」
通りすがりの男にどれだけ素性を明かしているのだかと己のことながら呆れてしまう。
だが、男は存外聞き上手で、子供の相手をしながらも私の話を次々に聞き出した。
口にした茶がぬるい。気が付けば随分と長居をしてしまったようだ。
生家はここから近い場所とはいえ、そろそろ行かなければ、暗くなるまでには着かないだろう。
「お話聞いていただき、ありがとうございました。私たちはそろそろ」
「失礼ながら申し上げるが、先の話では貴女の御実家ではその子のことをあまり歓迎しないというように感じたのだが」
「恥ずかしながら、両親は別の家に私を嫁がせるつもりでいるのです。その際に連れ子がいては……」
大きな口を開けて団子を頬張る子供。口についた餡をとってやりながらため息をつく。
まだ幼く何もわかっていないこの子はこれからどれだけの辛い目に合うのだろう。
せめてもう少し分別のつく年頃ならばと考えずにはいられない。あぁ、あの人はなんでこんなに早く。
「ならば、その子をワシに預けてみてはいかがかな」
「あの、ありがたいお話ですが、そんないきなり名前も知らない方に」
こんな初対面の人にいきなり子供を預けるなんて考えられない。
どんなに手のかかる子とはいえ産んだ子が可愛くないわけがない。私がいるうちだけでもこの子は守ってやらねば。
どう断ったものかと思案していると、空気を読まない我が子が元気よく声を上げる。
「おやかたさば!!」
「えっ? はあ? 何言ってるの?」
本当に何を言っているのかわからない。あと、べったりと手に餡をつけてから食べるのを止めなさい。
「ヤマのオジサンおやかたさば!」
「申し訳ございません。子供がなんと失礼を」
この甲斐武田の地で見ず知らずの男をお館様なんて呼ぶなんて恐れ多い。
子供の言うこととはいえ、誰かに聞かれたらコトだ。
あと、「ば」じゃなくて「ま」。どうしてそこが言えないの、この子は。