第3章 瓜二つでみまちがえた
私の謝罪を豪快に笑い飛ばしなら、子供の方に向き直り大きな体を縮め込めて視線を合わせようとする。
大きながたいに厳めしい風貌ではあるが、案外子供が好きな気さくな質なのかもしれない。
「ところで童よ、ワシは山なのか」
「うごかざることやまのごとし。しりがたきことかげのごとく」
夫が寝物語に聞かせていたお館様の言葉だ。
まだ意味なんてわからないだろうに。何度も何度も聞いているうちに覚えたのだろう。
顔なんてまったく似ていないのに、この子の中にはちゃんとあの人がいるんだと思うと目頭が熱くなってくる。
「ほお。孫子を諳んずるか」
「ととさまがおしえてくれたの」
「立派な”ととさま”じゃな」
「うん。大好きだったの」
眉を八の字にしながらもしっかりと上を向き伝える子供。
あっ、泣くかなと思ったところで、男の大きな手が子供の頭をかき混ぜる。
「この子の御父君は?」
「先の戦で……。ああ、通りすがりの方に私ったらなにを」
「ここで会ったのも何かの縁。そちらの茶屋で少し話でもしませんかな」
「いえ、その」
「なに、ここはワシの驕り。茶の十杯や二十杯」
「そんなには飲めませぬ」