第1章 ❄︎大人になるということ。〜爆豪勝己
何に向けることもなく交わされた乾杯。
聞きたことが山ほど、ある。が、それを口にするタチではない。
ロックグラスを口に運びつつ、爆豪はそっと、横目で彼女を改めて観察する。
右手で髪を耳にかけながら、左手で大きめのワイングラスに口付けるように先程選んだナチュールワインを流し込む。右手が耳元から離れると、青い雪の結晶のピアスが顔を覗かせる。足首まであるタイトなニットは女性特有の優雅な曲線をくっきりと浮かび上がらせながら、腕や腹部、足の細さも同時に魅せており、ゆったりとしたニットを好んで来ていた昔には気づかなかったスタイルの良さに気付かされる。
ワイングラスを口から離しこくりと飲み込むと、目を伏せうっとりとした表情になり、味を楽しんでいるようだった。
そんな、妖艶な彼女の所作ひとつひとつに爆豪は思わず、見惚れてしまう。目を開いたが爆豪と目を合わせると、不思議そうでありながら、何もかも計算済みでもありそうな表情で首を傾げた。
『どうしたの?爆豪ってもしかしてお酒、弱いの?』
「弱かねぇ。テメェこそもう赤くなってんじゃねぇか。」
『うーん、やっぱりワインはすぐ酔うな。好きなのに。悔しー。』
目を細めて、頬を赤らめて微笑む。
酔ってはいない。いないのだが、これは、まずい。
爆豪がそう自覚するのに、さほど時間は掛からなかった。
彼は彼女から目線を窓の外へと意図的に移す。
それから暫くは、昔話に花を咲かせた。
は懐かしむように様々な話題を次から次へと口に出す。
爆豪は、適当ながらも相槌を打ちながらぼんやりと思い出、に浸る。
プライドが高く孤立しがちな性格をしていたが、そんな自分でも、不思議とクラスに馴染めているような気がした。
窓の外のイルミネーションのように、きらきらした時間だった。もう遠い、過去の話だ。
爆豪の目に、誰よりも輝いて見えていたのは、だった。
彼女に。
恋を、していたのだろう。と、
そう思うようになったのは、雄英を卒業し、全く会うことも無ければ消息もわからなくなってからだった。