第1章 ❄︎大人になるということ。〜爆豪勝己
『ホワイトクリスマスがいいーって泣きじゃくっててさ。お母さん困っちゃっててね、それで私の個性で遊ばせてあげてたんだー』
賑わう飲み屋街で、空いている店を探し歩く。
今年のクリスマスは金曜日という最も人を夜の街へと誘い出しやすい曜日を相棒としたようだ。正に相性抜群、どの居酒屋も、どのレストラン、バーも見事に満席である。
20分程うろうろと歩き回ったところでようやく、ビルの3階にあるビストロを訪ねたところ丁度空きがでたらしく、落ち着いて座ることができた。
控えめな照明の店内にいる客の大半は、有体に言えば"恋人"達だ。しかしよく観察すると、夜の店の同伴中であろう者たちや 不倫という言葉を連想させる会話をする者たちもいる。
一面のガラス窓に向かったカウンター席に通され、かつて同じ学舎で時を過ごした"同級生"の2人が、並んで座る。
程なくしてウェイターがメニューをもって2人の元へ訪れると、はあれやこれやと質問をしながら、まるで爆豪など見えていないかのように ワイン選びに夢中になり始めた。この女は昔もこうやって、無邪気に、自分をイラつかせていた。
彼女の変わった部分、変わっていない部分。
そのどちらも、癇に障って仕方がない。
それなのに敢えて飲みに行こう、という誘いに応じてしまった自分は、何かを期待してしまっているのだろうか。
楽しそうに話す2人にイライラした上 ワインの味の違いなどさっぱり分からない爆豪は、半分投げやりのように ウィスキーのロックを注文した。
「お前ェ、今何してやがんだ。」
『んー。普通の仕事だよ。それにしても驚いたな、爆豪こそあんなところで何してたのさ。お忙しいんじゃないの?No.1って。特にこんな特別な夜なんてさ。』
「めんどくせェことはパスだ。俺ァNo.1ヒーローの名を維持し続けられりゃいい。」
『はは、負けず嫌いに高いプライドも全然変わってないなぁ、爆豪は。私なんて……、あ、お酒きたね。』
私なんて。どうしたっていうのだ。
この10年、どんな風に過ごしてきた?ヒーローはなぜ辞めた?
『爆豪、乾杯しよ?』