第1章 始まりの春
優衣の家に着くと出迎えてくれた優衣母が
「河川敷へ凛を追いかけて走っていったのよ。
友達と遊ぶって言ってたから心配無いのに、過保護な兄で困るわねー、優衣と遊ぶ約束してたのね!ごめんなさいね、帰ってきたら怒っておくわ」
なんて冗談混じりに話してた。
優衣母と別れて早速河川敷へと向かってみると、いつもは人なんてあまり集まらないそこに沢山の大人が集まっていて、胸騒ぎが止まらなかった
そこで俺が見たのは気を失って、胸骨圧迫マッサージを受けている凛と泣きじゃくる凛の親友
そして青白く変わり果てた優衣の姿だ。
何が起きたか分からないまま警察や救急車、血相を変えた優衣母がやって来てより一層騒がしくなった。
動揺するあまりその場にしゃがみこむ俺を優衣母は冷静に
「1度お家に帰りなさい」
なんて声をかけてくれた。
優衣母の方が辛いはずなのに俺にまで気を使って
後から聞いた話だ。あの後凛は騒ぎを聞きつけてやって来た大人に助けられたが、子供二人を抱えることは出来なかったのだろう。優衣は助けられた凛を見て安心し力尽きて流されて言ったそうだ。凛は周りの人の迅速な対応によって心臓がまた動き始め、病院で目覚めた。
だが、彼女は知らない。兄が死んだことを
たった一人の親友が自分を悪戯半分に殺しかけたことを
昔からの親友をなくした俺に優衣母は話してくれた。
騒ぎから凛の親友だった女は遠くに引っ越したこと。何かと溜め込みやすい凛に兄の死を隠し通すと決めたこと。優衣が凛を兄として守り通した事を誇りに思うと。
そして俺は最初で最後の優衣母の弱音を聞いた。
「血相をかえて走っていく優衣を追いかければよかった、、
変われるものなら変わってあげたかった、、、
冷たい川で苦しい思いをさせて死なせてごめんなさい」
と。
茂「優衣が守り通した凛を今度は俺が守ります。
凛が幸せになる日まで守り続けます」
俺は優衣母と約束をした。
優衣母は嬉しそうに少しだけ微笑んでくれた。
その姿に俺は自分が何も出来なかった事への罪悪感が少し薄れたように感じた