第5章 遭遇
そう思っていたけど、意外にも爆豪くんに怒られることはなかった。
先生の言う事を聞いたみんなが変な詮索せずに普通に接していたからだろうか。
最初こそ気にしている様子の人達はいたけど、それだけ。
中学のように弄ってくる人もいなくて、そういうところは流石雄英だなと思った。
何事もなく授業は進められ、午後の実技は少し離れた訓練場でやるようだった。
いつもだったら相澤先生だけだけど、今日はオールマイト先生ともう一人の先生の3人体制でやるらしい。
災害水難から人々を救う救助訓練。
ヒーローらしい訓練にワクワクする人もいれば、不安そうな人もいる。
だけど大半はやっぱりこの訓練を楽しみにしているみたいだた。
コスチュームは着用してもしなくても良いと言っていたけど、コスチュームを修理している緑谷くん以外は全員コスチュームを着用した。
バスに乗り込み、それぞれ好きな席に座る。
私は一番前の席に座った。
車酔いしやすいから。
案の定、揺れの少ない前に座ってもちょっと気持ち悪くなってきた。
酔い止めの薬飲めばよかったと思いながら、目を瞑った。
乗り物は苦手だ。
逃げ場はないし、どこに連れていかれるか分からないし、大抵"事故"として扱われるから。
「廻、大丈夫か?」
「………はい」
「薬だ。飲んどけ」
私の様子を心配した相澤先生が水と2錠の薬をくれた。
私の家の事情を知っている先生は、「寝てろ。着いたら起こす」と優しく声を掛けてくれた。
見た目とか物言いは怖くて厳しいけど、先生もやっぱり教師である前にヒーローなんだと思わせた。
がっかりさせたくないな。
除籍候補で落ちこぼれだけど、先生には落胆してほしくないな。
自慢の生徒でありたいな。
薬の副作用でぼんやりとする頭はそんな事ばかりを考える。
襲ってくる睡魔に抗わず、私はゆっくりと目を閉じた。