第3章 はじまりの季節
いくら考えても無駄だった。
答えはわからないまま、緑谷くんは痛みに耐えながら、私は個性を上手く使えないまま、個性把握テストの全種目が終了した。
トータル最下位は除籍、という言葉にみんな躍起になって取り組んだ。
結果など見なくても最下位が誰かなどみんなもう分かっていた。
個性を使わなかったため、記録らしい記録は何一つ出していない人間に自然と視線が集まる。
私は俯き地面を見つめた。
この後のことを考えながらどこの高校に編入しようかと頭を巡らせていたとき。
「ちなみに除籍はウソな」
衝撃的な発言に、時が止まったような気がした。
言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまったのは仕方がないかもしれない。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
にかっと笑う相澤先生に誰も何も言えない。
そんな嘘がまかり通っていいものなのか、大人がヒーローがそんなしょうもない嘘をつくものなのか。
言いたいことはたくさんあったが、誰よりも安堵したのは私だ。
「廻」
そんな私に先生は声を掛けてきた。
「今回は除籍なしだが、今後先ほどのように簡単に諦めるようであればオマエを除籍にせざるを得ない。それが嫌なら必死に藻掻け」
「……はい」
今回は相澤先生の優しさから見逃してもらえたもの。
次からはそうはいかないという宣告に、安堵していた気持ちは再び暗雲がたちこめる。
クラスの人達は先ほどのテストの結果に和気藹々と話をしていたけど、私はそんな気分になれる訳もなく、トボトボとみんなの後ろを歩いて教室へと戻った。
その後、教材や学校のセキュリティなどの説明を受け、この日の授業は午前中で終了した。