第3章 はじまりの季節
個性を持っていないとはいえ、緑谷くんの方が成績がいい。
私の個性がテスト向きではないことはきっと緑谷くんは薄々気づいてはいるはず。
使われてしまえば最下位になるのは緑谷くんだということも彼は分かっている。
残りの持久走、上体起こし、長座体前屈で結果を残さなければいけない。
その焦りは彼の表情に色濃く表れていた。
そして私にも。
「次、廻」
「はい」
緑谷くんの焦りと不安と緊張で青白くなった表情を見ながら私はボールを受け取る。
「廻って奴、なんで個性を使わねえんだ」
「使えねえだろうな」
「どういうことだよ」
赤い髪の毛を逆立たせた生徒―――切島くんは首を傾げる。
彼の疑問に爆豪くんが静かに答えた。
「アイツの個性は"ギャンブル"。ランダムで武器が具現化すんだよ」
「へー!!すげえ個性だな!!」
「俺の話を聞いてたンか。"ランダム"に"武器"が"具現化"されんだよ。このテストには不向きすぎる個性だ」
「た、確かに……」
自分の意思で具現化するわけではない。
それでも一か八かで使ってみるしかない。
それが私の持つ個性なのだから。
時計がくるくると回り、針が"10"の数字に止まり、弓矢が具現化される。
せめてロッドか鎖鎌が出て欲しかった。
そうすれば、バッドのように振って打つことも鎖に繋げてハンマー投げのように投げる事も出来たのに。
奥歯を噛みしめ、弓矢を地面に置き助走をつけてボールを投げた。
「32m」
個性なしの平均的な数字が耳に届く。
地面に置いた弓矢を手に持ち、ゆっくりと弓を引き矢を放つ。
綺麗な放物線を描いた矢はまるで私の心情を表すように力なく降下していく。