第3章 はじまりの季節
「爆豪くん」
「どうだったよ」
何が、と聞かなくてもバカでもわかる。
「わかんない。落ちたかもしれない」
「そうかよ」
それだけだった。
「いい様だな」とか「自分の力思い知ったんなら、ヒーロー諦めろや」とか言われるかと思っていた分、想像していたものと違う返答に、は戸惑いを隠すことができない。
だからだろうか。
自然と爆豪に話しかけてしまったのは。
「爆豪くんは?」
「あ?」
「試験。どうだった?」
「余裕に決まってンだろ」
「そっか。すごいな」
「テメェが雑魚すぎんだよ」
「頑張ったよ。実技もテストも」
「マジで頑張ってる奴は自分で頑張ってるって言わねぇ」
「そっか。じゃあもっと頑張らないと」
「落ちてる奴が何ほざいてんだ」
「まだ落ちてるって決まってない」
「俺以外全員落ちてんだよ。なんなら掛けてもいいぜ」
「受かってるに1万円」
「ちっ、金かよ。じゃあ、俺は落ちてるに3万」
「やった。1万ゲット」
「受かってるって決まってねえだろ」
「結果が来たら分かるよ」
「お前が受かってたら言う事一つ聞いてやらぁ」
「ほんと?何がいいかな」
「だからまだ受かってるって決まってねえだろうが」
「落ちてるとも決まってないよ。今このときくらい、夢、見させてよ」
「落ちてる気満々じゃねぇか、アホ」
「アホじゃない」
「じゃあバカ」
「バカって言う方がバカなんだよ」
「ガキか」
テンポのいい会話に足取りもの心も自然と、少しだけ、軽くなった。
久し振りに爆豪とこういう風に話せたと言う事実もあり、嬉しくなり顔が綻ぶ。
爆豪もまた彼女の楽しそうな顔を横目に、小さく微笑む。
夕暮れの真っ赤な空。
長く伸びた二つの影が仲睦まじく様子で重なった。