第3章 はじまりの季節
そして、2月26日。
入試当日。
夜遅くまで勉強していた私は、眠たい目を擦りながらリビングへ行く。
既に爆豪くんは朝食を食べていて、私の姿を見ると「チッ」と舌打ちをした。
「おはよう、ちゃん」
「おはようございます」
「今日二人とも入試だね。頑張るんだよ」
新聞を読んでいた勝さんが顔を上げてにっこりと笑う。
こくりと一回だけ頷いて、朝食に手を付けた。
空っぽのお腹が満たされエネルギーに変わっていくのを感じながら、私たちは家を出て、入試会場である雄英高校へと向かったのだった。
地下鉄を乗り継いで約40分。
その間彼らの間に会話はない。
「あ、緑谷君」
「どけデク!!」
雄英高校に着いた時、私と爆豪の前を緑谷くんが歩いていた。
声を掛けようとした私より早く爆豪くんは緑谷くんに罵声を浴びせた。
眉間に皺をよせ、不機嫌な顔をする彼に緑谷くんは肩を震わせた。
「俺の前に立つな、殺すぞ」
「おっ、お早う。がんバ張ろうね、お互ががい……」
苦手意識と緊張が相まっているのか、かちこちと身体を固くさせる緑谷くん。
その彼の横をすっと爆豪くんは歩いていく。
以前の彼なら爆破をするなりもっとひどい罵声を浴びせていたはずなのに。
ここ最近爆豪くんが緑谷くんに何かをしているところを見ていない。
……考えると、ヴィランに襲われてから見ていない?
そう思うと、私に対しても舌打ちとかはするけど暴言を吐くことは少なくなったような気もする。
爆豪くんの中で何か変化があったのかな。
少し前を歩く彼の背中を静かに見つめた。