第6章 雄英体育祭
衣装に袖を通そうとしたら、その手を彼女に取られた。
「無理しなくていいよ。何があったのかは知らないし聞かないけど、廻が無理する必要はどこにもないんだよ」
「耳郎、さん……」
真剣な表情の耳郎さんの瞳が少しだけ揺れていて、私の瞳に薄い透明な膜が張る。
零れそうになる何かをぐっとこらえ、彼女の手に触れた。
「無理、はしてるけど。でも、無理させてほしい」
「……廻」
「だって、今、すごく楽しいから。みんなと一緒に体育祭を楽しみたいんだ」
雄英高校に入ってから、すごく楽しい。
不安なことや怖いことはたくさんあるけど、それ以上に刺激的で楽しい。
「心配してくれてありがとう。すごく嬉しい」
「……何かあったら、ちゃんと言って。約束だから」
「うん」
その言葉に大きく頷き、私と耳郎さんは会場へと急いだ。
ずっと気にしている様子の耳郎さんに、私のことを気にしすぎて耳郎さんが体育祭楽しめないのは嫌だって言ったら、困ったような表情をしていたけど、最後には眉尻を下げて笑ってくれて、私も同じように笑った。