第2章 それは「運命」で「偶然」で「必然」の出来事。
飛び散ったヘドロはヒーローたちに回収され、無事警察に引き渡された。
私はヒーローに軽く注意をされただけだったけど、緑谷くんはこっぴどく怒られていた。
「君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!!」
ヒーローたちの言い分もなんとなく理解しながらも、誰かを助けようと動いたことを褒めるべきじゃないかなと思った。
ああ、オールマイトもきっとこのことを言っていたんだろうな。
彼の勇気を讃えたんだ、後で教えてあげよう。
逆に爆豪くんはヒーローたちに称賛されていた。
「すごいタフネスだ!!それにその"個性"!プロになったら是非うちのサイドキックに!!」
苦虫を噛み潰したような表情で、緑谷くんを睨む爆豪くん。
見下していた人に救けられた屈辱、掛けられた言葉の数々。
それらが爆豪くんのプライドと自尊心を傷つけた。
褒められても嬉しいはずないよね。
ヒーローたちに事の経緯や怪我の具合などを診てもらった後は、すぐに家に戻るように促された。
ほぼ無傷だった私達とは違い、襲われた爆豪くんは少しだけ治療に時間がかかっていた。
「じゃあ、僕、帰るね」
「うん、気を付けてね」
「ちゃんも」
バイバイと軽く手を振って緑谷くんは背を向けて歩き出した。
その様子を見ていた爆豪くんに「おい」と声を掛けられる。
「てめぇも先に帰っとけ」
「でも……」
「いいから帰ってろや」
赤い瞳が私を鋭く睨みつける。
びくりと肩が震え、私はただその言葉に従うしかなかった。
それでも彼に伝えなければいけないことがあった。
「爆豪くん」
「あ?なんだよ」
「ありがとう」
「は?何が」
「救けてくれて」
「何言っとんだ。俺は―――」
「ドロドロに私が捕まらないようにしてくれたでしょ」
「……」
「だから、ありがとう」
それだけ言って、私も踵を返して家に帰った。
爆豪くんが私を突き飛ばしてくれなきゃ、捕まっていたのは私だ。
分かりづらい配慮、というか、優しさ。
不器用すぎる気遣い。
さっきみたいに突き放すくせに。
何考えてるか、よくわかんないや。