第6章 雄英体育祭
『、久しぶりだな。やっぱり爆豪んとこに世話になっていたのか』
電話越しで聞くその声は、ねっとりと私の身体に絡み付く。
逃がさないとでも言うように。
なんで、どうして。
脳裏に蘇るあの日の記憶。
冷汗と鳥肌が止まらない。
気持ち悪い、気持ち悪い。
『刑務所でな、父さんも母さんも反省したんだ。お前にひどい事をしてしまったと。刑期を終えたあともずっと考えてたんだ、お前のこと。一度も忘れたことなんてない。大切でかわいい娘に俺たちはしてはいけないことをした。すまなかった。随分と怖い思いをさせてしまったけど、約束するよ。もう二度とお前を傷つけないと』
何を言っているのか、わからない。
全然頭に入ってこない。
苦しい、気持ち悪い。
身体に力が入らなくて、私はその場に膝をつき受話器を落とした。
「はっ……はぁ、ゲホッ……ゔッ」
頭の奥がズキズキと痛む。
手足が痺れて上手く動かせない。
目の前が霞んで何も見えない。
床に零れる液体が汗なのか涙なのか唾液なのか分からなくて、今までどうやって息をしていたっけ。
「……っ、う"えぇッ!!」
腹の底からこみ上げてくる気持ち悪さに我慢できなくなり、その場に嘔吐してしまった。
鼻の奥が酸っぱい匂いで満たされ、喉はひりひりと痛む。
吐瀉物で汚れた床を見て、私は慌てて着ていた服を脱ぎ拭き始める。
服の汚れも気にせず無心にただ床を綺麗にする。
そうしなくちゃいけないから、そうしなくちゃまた殴られるから。
汚しちゃったから、汚しちゃったら綺麗にしないといけないから。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
涙がボロボロと零れる。
泣いちゃだめ、泣いちゃだめ、泣いたらまた痛いことが待ってるから。
早く早く早く見つかる前に怒られる前に殴られる前にきれいにしなくちゃ。