第5章 遭遇
「救けられた命があったのに、救けてあげられなかった。すぐそばまで手が伸びていたのに、その手を握ってあげることができなかった。………それでいうと、私も人殺しの一人ね」
「……それは」
困ったように笑うミッドナイト先生になんて返せばいいのか分からなくて言葉に詰まる。
先生は人殺しじゃない、そう言えばいいだけなのに。
「結局、私たちも守れるものには限界がある。こぼしてしまうもののほうがたくさんあるわ。それでも、守らなければいけない。救けなければいけない。傲慢だって言われることもあるのよ、実際。身の程知らずだって。……話がずれちゃったわね」
「いえ……」
「もしかしたら根本的なところではヒーローもヴィランも同じなのかもしれない。ただどこに重きを置くかの違いなのかもね」
「重き……」
誰のために、なんのためにっていうところなんだろうか。
ミッドナイト先生は「考えなさい。自分が納得できるまで」と私の肩を叩いて「またわからなくなったらこうして一緒に悩んでお話しましょう」と言った。
まだ頭の中はぐるぐると悩みが渦巻いているけど、さっきよりは幾分かマシになった。
明確な答えをいつか見つけることができるんだろうか。
少しだけ気持ちの整理ができた私は鞄を持って漸く教室を後にした。
「先生」
「なあに?」
教室を出る時、私は先生に向き直った。
「自分の中でまだはっきりとした明確な答えは出ていないけど、これだけは絶対間違ってないっていう答えは見つけられました」
「なに?教えてくれる?」
「ミッドナイト先生は、ヒーローは、人殺しじゃない。それだけは揺るがない確かな事実だよ」
「ふふ、ありがとう」
小さく手を振って、私は学校を後にした。